忘れられない夜
「恋愛映画と言えば……」と色々な人にすすめられて、鑑賞。
ウィーンを舞台にしたシンプルなラブストーリーで、イーサン・ホーク演じるジェシーとジュリー・デルピーが演じるセリーヌの会話が中心。
ふだんラブストーリーは観ないのだけれど、本篇を通して思い出していたのは、忘れられない夜のことだった。
ブラッドベリの好きな短編で『生涯で一度の夜』という話がある。その中の一節を思い出した。
人生には一夜だけ、思い出に永遠に残るような夜があるにちがいない。誰にでもそういう一夜があるはずだ。そして、もしそういう夜が近づいていると感じ、今夜がその特別な夜になりそうだと気づいたなら、すかさず飛びつき、疑いをはさまず、以後決して他言してはならない。
きっとジェシーは、その夜に飛びついたのだろうと思った。もちろん彼らが過ごしたのは夜だけではないけれど。
彼らがウィーンの街中で感じた、宵の涼しい風、河の流れる音、誰かが零したお酒の匂い、恋人たちのささやき、見知らぬ家の灯りは、私がいままでどこかで見て、感じ、嗅いだことのある景色を思い出させる。「あぁ、私にも特別な夜があったな」と。ジェシーとセリーヌのようにロマンティックなものではないけれど、その夜は本当にすてきで、やさしく、特別だった。
彼らにとって生涯一度の夜がウィーンの夜であったのならば、続篇を観るのが怖いという思いもある。そんな気持ちにさせるくらい、私の思い出と日常にするりと入り込んできた不思議な映画だった。
- 作者: レイブラッドベリ,Ray Bradbury,伊藤典夫
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1999/12/27
- メディア: 文庫
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